社長の自伝本は若手ビジネスパーソンにとっては毒

さて、今日は色んな方々からよく聞かれるこのテーマについて取り上げたいと思います。
結論から言います。
若手ビジネスパーソンにとっては不要です。というか害になる可能性があります。
それはなぜでしょうか?じっくり解説したいと思います。

そもそも社長の自伝本ってどんなもの?

往年の名作と言われているのは、松下幸之助の“道をひらく”や、今で言うとホリエモンとかが該当するでしょうか。
もちろん、松下幸之助さんは、戦後の焼け野原から日本を代表する企業であるホンダを作り上げた経営者の代表格と言っていい方ですし、ホリエモンも日本にいる数少ない0から1を作り出すアイデア社長で社会にインパクトを数々残している方です。
というか、本を著すレベルの方々は絶対的に優れた経営者です。
ではなぜ、そんな方の書いた本が、なぜ害になる可能性があるのでしょうか?理由は3つあります

  1. 経営者の経験は所詮サンプル1で再現性に疑問
  2. 経験・実績が特殊かつ輝かしいため、引き込まれてしまう(批判的な目線が無くなってしまう)
  3. 記述が抽象的なものが多い。そのため、自分流の解釈をしてしまう

以下、詳しく解説していきましょう。

経営者の経験は所詮サンプル1で再現性に疑問

コレなんですよねえ。怖いのは。つまり、時代背景・顧客動向・競争環境・活用可能なリソース・そしてテクノロジーが絶対的に違うので、これら経営者の考え方や動き方を真似ても、うまくいくかが保証されてないんですね。
例えばどういうことか、松下さんの「道をひらく」から記述を引用させて頂きます。

”自分には自分に与えられた道がある。天与の尊い道がある。どんな道かは知らないが、ほかの人には歩めない。(中略)この道が果たしてよいのか悪いのか、思案にあまる時もあろう。なぐさめを求めたくなる時もあろう。しかし、所詮はこの道しかないのではないか。
ー松下幸之助『道をひらく』

皆さんはどう感じましたか?
今の不確実性が高い、ハイパーコンペティションの時代にあっては、一旦幅広にやってみて、学んで、修正していく、ラーニング型が主流になりつつあります。
これは個人も同じです。一つの職場・職種に全てを預けることは一般的に危険度が高くなってます。このことは、私のブログや、グロービスMBA経営戦略を読んで頂けると理解できるかと思います。 【図解】グロービスMBA経営戦略_前編

そしてホリエモンは真逆の事を言ってます。

“石の上にも三年とかクソだと思う。
“「石の上で3年我慢できたら次の仕事を教えてやる」などと言う親方のもとで働いていては貴重な時間が失われるだけだ。
ー堀江貴文『多動力』

どっちやねん!ってなりません?(笑)

経験・実績が特殊かつ輝かしいため、引き込まれてしまう

そもそも、松下さんの実績はすごいものです。一代で日本を代表する世界的な企業を創業した偉業は輝かしいものです。
ホリエモンも異論はあるとは思いますが、10年以上前から放送とネットの融合を唱え、動き始める姿は慧眼という他有りません。
その偉業があるから、「この人の言っていることは大体正しい」という印象を持ってしまいます。
これは心理学でいうところの“ハロー効果”というものです。
美女やイケメンが言っていることは、外見が整っているだけで、論理も整っているように聞こえてしまう人間の心理作用を指すアレです。
自分の好きなサービスをやっている経営者の本の内容に批判的な思考を持たずに賛成してしまう経験は誰しもあるのではないでしょうか?

記述が抽象的なものが多い。そのため、自分流の解釈をしてしまう

松下さんの本からまた引用させてください。

“志を立てよう。本気になって、真剣に志を立てよう。生命をかけるほどの思いで志を立てよう。志を立てれば、事はもはや半ばは達せられたといってよい。
志を立てるのに、老いも若きもない。そして志あるところ、老いも若きも道は必ずひらけるのである。
ー松下幸之助『道をひらく』

志とは具体的に何なのか、道がひらけるとは具体的に何なのか。
これは本の中では明らかにされないです。ということは読者の解釈に委ねられます。
結果、先述のハロー効果と相まって好意的に解釈されますし、自分の持っている目標を正当化してしまいます。でもその目標がそもそも、将来なりたい姿や、今置かれている状況と比較して不適切な場合、それは不幸が待っていると言わざるを得ません。

若手ビジネスパーソンにとって本当に読むべき本とは

以上から、思考の軸が定まっていない、若手ビジネスパーソンにとっては、経営者の自伝本は不要どころか、毒になる可能性があるんですよね。
これが凝り固まって、外部に発信し始めると「意識高い系」の出来上がりです。
別に読むなとは言ってません。但し、“娯楽”と認識して読むことが重要です。
その意味で、「ワンピース」を読んでいるのと変わりないと認識すべきです。
つまり、元気がない時に自分の生き方を肯定したい、とか極端な人の考え方を見て笑いたいとか、そんな位置付けです。
一方で、抽象的な人生の指針、つまり“宗教”が欲しいのであれば、聖書とか論語とか、時代の試練を勝ち抜いた本を読むべきです。経営者の自伝はどちらにとっても中途半端です。
では何を読むべき?それは学者が書いた本であり、研究の成果が記載された本です。
社会科学(経営学、経済学、心理学等)では統計学を駆使して、偶然の結果を排する事がもはや常識ですし、記述は抽象性を排します。
こういう本を読んで、「人間はどう動くのか?」の法則を学んで欲しいです。
社会科学の骨太な本を読んで、思考の軸となる道具をたくさん学ぶことが、若手ビジネスパーソンに求められる読書でしょう。

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